セラミドが詰まる真相とインナードライの真実
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まずはインナードライってなんなのか、について
資生堂
「インナードライは化粧品会社が金儲けのために生み出した嘘の概念だ」 SNSでそう断じる声がある。結論から言えば、その主張は半分正しい。「インナードライ」というカテゴリは医学界には存在せず、消費者の購買意欲を煽るための造語としての側面があるのは事実。
また、「乾燥しているから、肌が頑張って皮脂を出している」という聞き覚えのあるメカニズムも、現在の皮膚科学において明確なエビデンスはない。皮脂腺に水分センサーはなく、その分泌を司るのはあくまでホルモンバランスだ。
インナードライという言葉が作られたからといって、その背後にある「現象」までが虚構になるわけではない。科学がまだ十分に説明できていないだけで、現象そのものは先に存在していることは少なくない。
例として、炭酸を肌に塗ると肌に良い、といわれてきた。 当初は「血行が促進されることで、くすみの改善やターンオーバーに良いのではないか」という推測にとどまっていた。しかし近年では、炭酸が表皮細胞のエネルギー代謝を活性化させることが確認されつつある。
つまり、経験的に語られていた現象に対して、後から科学的説明が与えられたという構図はよくあることで、言葉や理論は後追いで整備されることがあるが、現象そのものまで否定されるわけではない、ということを言いたい。現実に「テカるのに突っ張る」という矛盾に苦しむ人は絶えない。
ではなぜ、油分はあるのに乾燥するのか?その答えの一つが、俗説を排した「物理的なバリアの崩壊」にある。
「皮脂の増量」ではなく「水分の喪失」
インナードライとは、脂性傾向の肌において角層の水分量が低下し、バリア機能が十分に働いていない状態を指すことが多い。
ここで重要なのは、肌の潤い管理には性質の異なる二つの要素があるという点である。
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皮脂(油膜): 表面を覆う脂。分泌量はホルモンの影響を強く受け、単純に「外側が乾燥しているから減る・増える」という仕組みではない。(1)
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細胞間脂質(セラミド等): 角層細胞の隙間を埋める脂質で、ラメラ構造を形成する。この構造が水分を保持し、同時に外部刺激を防ぐ「バリア機能」の中核を担っている。(2)
インナードライの構図は、皮脂分泌は比較的保たれている、あるいは多い・一方で、 角層の水分保持機能(セラミドなど)が低下している状態を指すことが多い。
ではなぜ「皮脂が増えた」と誤解されるのか。それは水分が消えたことによる「物理的なすり替え」が起きているのではないか。ラメラ構造が壊れて水分が蒸発すると、肌表面には「皮脂」だけが取り残される。本来、水分と混ざり合って綺麗なベールを作るはずの皮脂が、単独でギラつくために実際よりも脂が増えたように見えてしまう可能性が考えられる。
つまり、「皮脂の絶対量が増えた」というよりも、「水分が減少した結果、皮脂が相対的に目立っている」可能性のほうが現実的である。ただし、これはすべてのケースで実証された確定理論というより、 現在の皮膚生理学からみて整合性の高い説明の一つ、という位置づけである。
セラミドが「詰まってニキビができる」という噂の正体
最近、SNSでは「セラミド配合の保湿剤を使うとニキビができる」「セラミドが毛穴に詰まって悪化する」という言説がまことしやかに囁かれている。この噂もまた、インナードライの誤解と同様に、言葉の独り歩きと生理現象の混同が生んだ産物である。
結論を急ぐなら、セラミドそのものが「毛穴を詰まらせる直接の原因」になることは考えにくい。 なぜなら、セラミドは私たちが生まれ持った肌の構成成分であり、本来はバリア機能を維持するために不可欠な、細胞間の「セメント」のような役割を果たす脂質だから。
では、なぜ「セラミドでニキビができた」と感じる人が後を絶たないのか。その正体は、セラミドという成分の罪ではなく、「製品の処方」と「肌の代謝異常」という二つの側面から説明がつく。
1. 「セラミド」ではなく処方設計が合わなかった説
市場に出回っているセラミド配合化粧品の多くは、ターゲットを「乾燥肌」に設定している。セラミドを肌に定着させ、水分の蒸発を防ぐために、ワセリン、ミネラルオイル、あるいは植物油脂といった「エモリエント成分(油分)」が厚めに配合される傾向がある。
ニキビに悩む人の多くは、もともと皮脂分泌が活発だ。そこに重厚な油分を重ねれば、毛穴の出口が物理的に塞がれ、酸素を嫌い、無酸素で活発になるアクネ菌の増殖を招く可能性もゼロではない。つまり、犯人は主役のセラミドではなく、オイルリッチな処方設計の可能性が高い。
2. 「バリアの崩壊」が招く角質の渋滞
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もう一つの要因は、皮脂の問題ではなく「角質の剥離」の問題である。
セラミドが不足し、ラメラ構造が崩れた肌の実態は「未熟な角質」が積み重なった状態にある。
本来、役目を終えた角質はパラパラと剥がれ落ちるべきだが、水分を失いバリアが壊れた肌では、角質同士の接着が異常をきたし、うまく剥がれなくなる。この「剥がれ損ねた角質」が、分泌された皮脂と混ざり合い、毛穴に蓋をしてしまう。これが角栓の正体だ。
この状態で「セラミドで保湿したからニキビができた」と感じるのは、因果関係の逆転である。実際には、「セラミド不足によるバリア崩壊が、すでに毛穴を詰まりやすい状態(角化異常)に追い込んでいた」と見る方が、皮膚生理学的な整合性が高い。
3. 「補うべき」か「避けるべき」か
「ニキビがあるからセラミドを避ける」という選択は多くの場合、火に油を注ぐ結果になる。水分保持機能が改善されない限り、角質の剥離サイクルは乱れたままで、毛穴の詰まりやすい環境は温存されるからだ。
重要なのは、セラミドという成分を否定することではなく、「油分が少なめで、セラミド(特にヒト型セラミド)を適切に配合したジェルや美容液」を選択することにある。
「油」で蓋をするのではなく、「脂質」で構造を修復する。この区別がつかないままでは、インナードライにセラミドはNGという謎理論から抜け出すことは叶わない。